微生物の知性(1)
- 2021/05/02
- 05:05
ウイルスや微生物などを研究していたのですが、
その時は、変形菌(粘菌)を知りませんでした。
でも、動物園勤務の時、
和歌山の南紀白浜アドベンチャーワールドに行った時、
『南方熊楠』資料館を案内してもらい、
そこで、和歌山の偉人『南方熊楠』が、
研究していた変形菌(粘菌)の事を、初めて知りました。
細胞の中に細胞核を持つ、
動物、植物、そして、キノコ、カビなどの菌類、
そして、変形菌(粘菌)などの原生生物は、
真核生物と呼ばれ、
真核生物以外の、
細胞内に細胞核を持たない、
細菌と古細菌などの単細胞生物は、
原核生物と呼ばれています。
ちなみに、
変形菌(粘菌)の
モジホコリ(Physarum polycephalum)は、
脳は、無いのですが、知性があると言われています。
変形菌(粘菌)は、
生活環の中で、単細胞のアメーバ細胞の時期、
変形体とよばれる多核アメーバ体の時期、
胞子を形成、散布する子実体の時期があります。
アメーバ細胞や変形体は、動きながら、
細菌などを捕食して、成長、増殖します。
光や飢餓刺激を受けると、腐朽木や落葉などの上に、
微小なキノコの様な子実体を、形成するそうです。
昔は、変形菌の子実体が、キノコに似ているので、
菌類に分類されたり、
細菌などを捕食するアメーバ細胞や変形体の形態にもなるので、
原生動物に分類されたりしていましたが、
現在では、真核生物の
アメーボゾアの中の変形菌綱に分類され、
900種以上が知られています。
変形菌(粘菌)のモジホコリは、
林床の落ち葉や朽ち木の表面などに生息し、
進行方向に対して前部ではシート状となり、
後部では網目状の管構造が形成され、
微生物などの餌を見つけると取り囲み、消化酵素を分泌して、
消化、吸収するそうです。

モジホコリは、黄色いカビか粘液の塊に見えますが、
実際にはカビ(菌類)ではなく、
アメーバに近い単細胞生物のコロニー(群体)で、
多数の細胞が寄り集まって大きな変形体を形成しています。
モジホコリは、
環境の変化によって、乾燥すると、
長期間にわたって環境の変化に耐える事の出来る、
休眠状態の皮体に変化し、
好ましい環境になると、
皮体は、変形体となって、餌を探すそうです。
餌が尽きると、変形体は、摂食を止め、
生殖のため、変形体から胞子嚢と柄が生じ、
子実体に変化します。
そして、胞子嚢から、胞子が出て、
風に乗って運ばれるそうです。
ちなみに、
胞子は耐久性があり、何年も生存できるそうです。
そして、良い環境下で、胞子は発芽して、
単細胞のアメーバ細胞となり、
それらが、互いに融合し、
新たな変形体を、形成するそうです。
ちなみに、
モジホコリは、湿めった環境が好きで、
餌は、オートミールが、大好物で、
光が当たるなどすると、子実体への移行が起こるので、
変形体を維持する場合には、暗所で保管するそうです。
そして、モジホコリは、単細胞生物ながら、
状況により様々な知性を示します。
モジホコリなどの変形菌(粘菌)を、
迷路の中に置いて、
その迷路の端と端にえさを置くと、
一旦は迷路全体に広がりますが、
最終的には、餌と餌の最短距離
即ち、迷路の回答だけになり、
それ以外の部分は、衰退するそうです。
このような迷路問題を、コンピュータで行うと、組合せが多くて、
算出にかかる時間が、ものすごくかかるのですが、
変形菌(粘菌)では、
かかる時間が、単に線形に増加するだけなので、
コンピューターと比べると、
解決にかかる時間が、圧倒的に短いそうです。
最終的に形成された形は、
迷路問題の解で、粘菌コンピュータと呼ばれています。
YOU TUBEで、モジホコリが、
迷路で、好物のオートミールへの最短距離を、
見つけるまでの、実験映像が見れます。
イギリスのウエスト・オブ・イングランド大学で、
モジホコリの変形体の動きを、
好物の餌と嫌いな光を使って、
正確に制御できると発表しました。
モジホコリの変形体は、
同じ刺激に対しては同じように動くので、
生体コンピュータの材料として、
理想的な生物であると述べています。
北海道大学電子科学研究所『中垣俊之』教授は、
モジホコリを、30c㎡の迷路に入れて、
2ヶ所に、大好物の餌オートミールを、置きました。
最初、モジホコリの変形体は、
仮足を広げてネットワークを作り、
到達可能な平面を充たしますが、
やがて、その2ヶ所を結ぶ、
最短経路に、集中しました。
そして、
次に、モジホコリの変形体が、寒天培地上を動いている時、
60分ごとに、最初の10分間だけ、低温や乾燥の刺激を与えました。
そうすると、刺激している間、変形体は動作が、鈍りました。
刺激を3回繰り返した後、刺激を止めて観察すると、
再び来るであろうストレスを予測し、
60分ごとに、運動を減縮したそうです。
そして、
そのまま刺激しないでいると、
細胞は動作の減縮をしなくなりましたが、
再び、60分ごとに、刺激をを与える、
60分ごとに、運動を減縮したそうです。
そして、刺激の間隔時間を、
60分ではなく、30分から90分の間にしても、
結果は、その時間を、学習させることが、出来たそうです。
『中垣俊之』教授は、これらの結果より、
モジホコリがある種の原始的な知能を、
備えていると結論づけました。
そして、『中垣俊之』教授は、
日本の首都圏を模した形状の培地と
モジホコリを用いて、
都市に相当する箇所にエサを設置し、
海や山に相当する部分には、
深度や高度に応じた強さの光を当てると、
効率的な交通網のモデルが作成されたそうです。
このモデルは輸送効率や冗長経路の設計の点で、
実際の日本の鉄道網と類似性が見られたそうです。
北海道大学『中垣俊之』教授は、
「単細胞生物である粘菌が、
迷路やその他のパズルを解く能力が、
あることを証明した。」に対して、
2008年イグ・ノーベル賞認知科学賞、
そして、「鉄道網など都市のインフラ整備を行う際、
粘菌を用いて輸送効率に優れた最適なネットワークを、
設計する研究」に対して、
2010年イグ・ノーベル賞交通計画賞と、
2回も受賞しました。
イグ・ノーベル賞は、
ノーベル賞に対するパロディーで、
人々を笑わせ考えさせた業績に与えられる賞です。
北海道大学『中垣俊之』教授のHPが、
あります。
そして、
変形菌(粘菌)のモジホコリの記憶に関して、
驚くべき発見が、ありました。(続く)
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