マタギから聞いた話(29)-なくした物
- 2019/05/05
- 05:05
シカリのSさん親子から聞いた話を続けます。
千数百年前より、
ギリシャからインドにかけての地域周辺では、
消化器系全般の万能薬として、
動物の胆のうから出来た薬が、
使用されていました。
特に、クマの胆のうは、
他の動物に比べ湿潤せず、
加工しやすかったので、
「熊の胆(熊胆)」と呼ばれ、
利用されてきました。
日本では、「熊の胆」は、
飛鳥時代から利用されましたが、
とても貴重な薬で、
聖武天皇に献上されていたとされる「熊の胆」が、
今でも正倉院に残っています。
奈良時代では、税の一種の「調」として、
収められる事もあったそうです。
ちなみに、自分の先祖は、
役人として、「調」を担当していたそうです。
江戸時代に、
漢方医学の古方派を代表する医師『後藤艮山』が、
「熊胆丸」を作り、効果が認められ、
一般人に広がったそうです。
その後、
東北の諸藩では、
熊胆の公定価格を定めたり、
秋田藩では薬として販売することに、
力を入れていたそうです。
そのため、
「熊の胆」が、高価で取引されていました。
昔は、クマ3頭捕獲すれば、1年生活出来たそうです。
そこまでは良かったのですが、
1927年、岡山大学『正田政人』教授が、
「熊の胆」の主成分「ウルソデオキシコール酸」を、
発見しました。
そして、東京工業大学『金沢定一』教授が、
牛の胆から、
ウルソデオキシコール酸の化学的合成に成功し、
1957年には、日本の製薬会社が、
強肝・利胆剤の「ウルソ」として発売を開始しました。
世界的に効果が認められ、
ウルソデオキシコール酸は、
消化機能や肝機能を改善したり、
胆汁の分泌を促進する利胆薬などとして、
幅広く使用されています。
自分も、ウルソデオキシコール酸は、
犬猫に使用しています。
「熊の胆」の主成分「ウルソデオキシコール酸」が、
合成されるようになったので、
熊の胆の値段が下がり、
その上、食材の肉としては、
捕獲された野生の鳥獣のジビエではなく、
飼育されてている牛豚が、主なので、
ジビエが高価で取り引きされるわけでもなく、
現在では、マタギは、猟だけでは生活できないが厳しいので、
猟期でない時は、他の仕事をするそうです。
ある時、
マタギのAさんが、
工事のアルバイトで、山に行ったそうです。
その時、仕事仲間の一人が、
車のキーを紛失してしまったそうです。
その時、皆で手分けして、
周囲を端から端まで探しましたが、
見つからなかったそうです。
皆が困っていると、
マタギだったAさんは、
昔やった儀式「クライドリ」の裸踊りを思い出し、
山の女神様が、
男性が好きだった事を思い出しました。
そして、
「男の大事な所を見せると、
山の女神様が喜んで探し物を出してくれる。」と言いました。
そんなことがあるのかと、みんなが怪しんでいると、
仲間の1人が、キーを持って戻ってきたそうです。
「あんなに探したのに、いったいどこで見つけたんだ?」と聞くと、
「立ち小便したら出てきた。」と答えたそうです。(続く)
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