マタギから聞いた話(9)-なした?
- 2019/02/06
- 05:05
シカリのSさん親子から聞いた話を続けます。
秋田の阿仁のマタギの集落には、
熊の胆を求めてやってくる商人がいました。
沖縄国際海洋博覧会が開催された1975年頃の話ですが、
いつも来ている富山の薬商人が、
マタギの家を一軒一軒回って、
熊の胆などの熊関係の薬の材料を、
買い付けに来たそうです。
狭い集落なので、薬売りの動向は、
誰でも知っていました。
しかし、いつも全軒回ってから帰るのに、
今回は、2-3軒回った後、
いつも来る家に来ませんでした。
商人の消息が無くなり、
集落の人たちは、心配になったので、
捜索する事にしました。
すると、その商人は、
裸で、山奥の沢の中にいました。
集落の人たちは、沢から引き揚げて、
話を聞きました。
その商人の話によると、
いつものように買い付けをしていると、
物凄い美人が、辻の所に立っていて、
家に来て、休まないかと声をかけて来たそうです。
商人は疲れていたので、
その美人の家に、ついて行ったそうです。
そして、風呂に入ってから休みなさいと言われたので、
風呂に入ってゆっくりしていたら、
集落の人たちに声が聞こえてきたので、
ふと、周りを見たら、風呂に入っていたのに、
風呂ではなく、沢に入っていたそうです。
その話を聞いた集落の豪胆な若者が、
「そんな事があるわけない。
おそらく、
酒でも飲んで、酔っぱらっていたんだ!
もし、物の怪の類がいたら、
捕まえてやる!」と息巻いたそうです。
そして、豪胆な若者は、
夜中に商人が美人と出会った場所に、
酒を飲まずに、行きました。
すると、道の真ん中に、
しゃがみこんでいる人がいました。
豪胆な若者は、
「なした?(標準語で、どうしたんだ?)
あんべわりのか?(標準語で、どこか具合が悪い?)」と声をかけましたが、
相手は、しゃがみこんだまま動かなかったそうです。
ちなみに、
秋田県のキャッチフレーズは、
「あんべいいな秋田」です。
ちなみに、
2001年のアメリカのテロ事件の余波を受け、
「アメリカ軍基地があるから危険だ」ということで、
深刻な観光ダメージを受けた時の沖縄のキャッチフレーズは、
「だいじょうぶさ~沖縄
(うちなーぐち (沖縄の方言)で、
なんくるないさー沖縄)」でした。
豪胆な若者は、聞こえなか、
あるいは、方言が分からない都会の人かと思い、
「何か、助けがいるのか?」と、
もう一度、標準語で、ゆっくりとはっきりした言葉で、
大声で声をかけると、
しゃがみこんだ人が、振り返ったそうです。
ちなみに、
自分も、秋田に来た時は、
秋田弁は分かりにくかったので、
市役所の外回りの仕事で、
ディープな秋田弁をしゃべる人との対話には、
通訳を付けてもらいました。
今は、秋田弁は、
大体は、分かるようになりました。
豪胆な若者は、その人を見た途端、
「ワー」と叫び声をあげたのまでは覚えているのですが、
どうやって帰ったかは分かりませんが、
気が付いたら家にいたそうです。
その後、豪胆な若者は、
3日間高熱でうなされたそうです。
後日、豪胆な若者が、回復した後、集落の人に、
「振り返ったのは、人ではなく、
妖怪か悪魔か?何かは分からないが、
とにかく怖い物だった。」と話したそうです。
集落の人々は、
狐に化かされたと噂したそうです。(続く)
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