マタギから聞いた話(8)-川の主
- 2019/02/05
- 05:05
シカリのSさん親子から聞いた話を続けます。
マタギのAさんは、
猟に出ない日は、毎日釣りをするほど釣りが好きで、
イワナ釣りは名人と呼ばれる程、上手かったそうです。
しかし、
ある時、いつも行っている川で、
片目のない40cmを超える大イワナを、
糸が切れて、あと少しという所で、
逃げられたそうです。
その時、
マタギのAさんは、くやしがり、
いつか仕留めると心に誓ったそうです。
その後、天候が不順が続き、
不作の年になると人々は、
予想していました。
マタギのAさんも、
今年は、凶作になるだろうと思い、
早めにクマを仕留めて、
現金を作ろうと考えたそうです。
しかし、
禁猟期間中だったので、
鉄砲をかついで山に入ることは、
出来ないので、
秘かに、山奥にドラム缶で作った箱罠を、
仕掛けることにしたそうです。
しかし、
箱罠を仕掛けてすぐに、
大雨が降り続いたそうです。
そのため、川が氾濫したそうです。
その後、雨が上がると、
今度は急に、カンカン照りの熱い日が続き、
氾濫していた水は、落ち着きました。
マタギのAさんは、
もし、クマが箱罠に入っていて、
そのまま、水が来ていたら、
溺死して腐っていると思われるが、
その処理を考えると、めんどくさくなって、
しばらく放置していました。
しかし、禁猟期間中なのに、
罠を仕掛けてあるのを人に見られたらと思うと、
不安で、たまらなくなはじめ、箱罠を回収しに行きました。
すると、箱罠からものすごい異臭が漂ってきました。
見ると、今までに見たこともない大グマだったそうです。
めんどくさがらずに、もっと早く来ていたら、
まだ、腐っていなかったかもと、残念に思いながら、
クマの死骸をひきずり出した瞬間、
クマの死骸から、以前、取り逃がした片目の大イワナが、
飛び出てきたそうです。
片目の大イワナは、
死んでいるようでしたが、
マタギのAさんは、睨まれたような気がして、
イワナが、腐っていなかったと思うと同時に、
怖くなったそうです。
そして、
マタギのAさんは、
その大イワナをつかみ、
川の中に戻したそうです。
何度も何度も水をかけて、
「生き返ってくれ!」と呼びかけたそうです。
しかし、
大イワナは、水面に浮かび、
そのまま下流へと流されて行ったそうです。
その後、マタギのAさんは、
数日間の記憶は、
はっきりしていないそうです。
落ち着いてから、マタギのAさんが、
家族から聞いた話では、
マタギのAさんが、山から戻って来た後、
何を聞いても答えず、
うつろな目で、ひとりごとを言いながら、焼酎を煽り、
そのまま数日間、布団に寝込んでいたそうです。
後日、マタギのAさんは、
「落ち着いて考えると、
あの時は、魂が抜かれていたと思う。
今思うと、
川の主だった片目の大イワナが、
箱罠の中にほっといていたので、
怒っていたんだと思っています。」と言ったそうです。
この状態は、「マブイ(魂)落としたんじゃないの-」と、
沖縄なら言われています。
沖縄に住んでいた時、
人は、心理的ショックを受けた時、
魂が抜け、茫然自失の状態に陥り、
魂が抜けた後に悪霊が入り込む事があるので、
「マブイグミ(魂込み)」を行うと、聞きました。
やり方は、
マブイ(魂)を落したと思われる場所に行き、
「マブヤーマブヤーウーティキミソーリ
(魂よ、私を追ってきてください。)」という意味の呪文を、
3回唱えるそうです。
でも、
素人がやるより、
信用ある「ユタ(巫女)」に、
頼んだ方が良いと思います。
その後、マタギのAさんは、
再び、山の主のイワナの顔が頭にこびりつき、
怖くなり、釣りをやめたそうです。
ちなみに、
秋田には、渓流釣りのポイントが多いので、
開業する前は、良くやりました。
でも、時々、クマの足跡があり、
警戒しながらしていました。
でも、魚影が見えても、釣るのは難しかったです。
動物園勤務の時は、クマやカモシカ、
水族館勤務の時は、タツノオトシゴやサメ、マンボウ、
ペンギン、パンダイルカなどの捕獲の話もありますが、
機会があれば…。(続く)
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